自社はいくらで売れるのか 企業価値評価3つのアプローチ

企業価値評価の基礎知識

自社はいくらで売れるのか
企業価値評価3つのアプローチ

M&Aで最も気になるのが「いくらになるのか」という点です。評価の考え方と計算の仕組み、そして価格を左右する要因を、公認会計士の視点から整理します。

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企業価値と株式価値の違い

「会社の値段」と一口に言っても、実は複数の概念があります。この違いを理解しておかないと、提示された金額の意味を取り違えることになります。

3つの価値

事業価値は、本業そのものが生み出す価値です。これに遊休不動産や余剰の現預金など、事業に使っていない資産を加えたものが企業価値です。そして企業価値から借入金などの有利子負債を差し引いたものが株式価値、すなわち株主が受け取る金額になります。

基本の関係式
事業価値 非事業用資産 企業価値
企業価値 有利子負債 株式価値
株式譲渡の場合、売主が受け取る対価は「株式価値」に相当します

なぜこの区別が重要か:たとえば企業価値が5億円と評価されても、借入金が2億円あれば、株主が手にするのは3億円です。逆に、無借金で余剰現金が1億円ある会社なら、事業価値以上の金額になることもあります。「うちは5億円の価値がある」と聞いたとき、それが企業価値なのか株式価値なのかで、手取りは大きく変わります。

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評価の3つのアプローチ

企業価値の評価手法は、大きく3つの考え方に分類されます。それぞれ着目する対象が異なり、実務では複数を併用して妥当な水準を探ります。

🏛 コストアプローチ
会社が今持っている資産に着目する方法。資産と負債を時価で洗い替え、その差額を価値とみなします。代表的な手法は時価純資産法です。
長所:客観性が高い / 短所:将来の収益力が反映されない
📊 マーケットアプローチ
似た会社の取引事例に着目する方法。上場している同業他社の株価指標や、過去のM&A事例と比較して評価します。
長所:市場の実感に近い / 短所:比較対象の選定が難しい
📈 インカムアプローチ
将来生み出すお金に着目する方法。事業計画に基づく将来キャッシュフローを現在価値に割り引きます。代表的な手法はDCF法です。
長所:将来性を反映できる / 短所:前提次第で結果が大きく変動
🔢 年買法(併用型)
時価純資産に営業利益の数年分を上乗せする、中小M&Aで最も広く使われる実務的な手法。コストとインカムの折衷といえます。
長所:計算が分かりやすい / 短所:理論的な裏付けは弱い
手法 着目点 主な用途 中小M&Aでの
使用頻度
時価純資産法 保有資産の時価 資産型ビジネス、清算価値の把握 高い
年買法 純資産+収益力 中小企業の実務全般 最も高い
類似会社比較法 同業他社の株価指標 一定規模以上、比較対象がある業種 中程度
DCF法 将来キャッシュフロー 成長企業、事業計画が精緻な会社 中程度

単一の手法で決まるわけではありません。実務では複数の手法で試算し、その幅(レンジ)を把握したうえで、交渉によって最終的な価格が決まります。評価はあくまで交渉の出発点であり、絶対的な正解があるわけではない、という点はご理解いただきたい部分です。

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中小M&Aで使われる「年買法」

中小企業のM&Aで最も広く用いられているのが年買法(年倍法)です。計算が直感的で、経営者にも理解しやすい点が特徴です。

年買法の計算式
株式価値 時価純資産 修正後営業利益 × 3〜5年分
上乗せ部分が「のれん」に相当します。年数は業種・成長性・事業リスクにより変動します
① 時価純資産を出す
帳簿上の純資産を、実態に合わせて修正します。土地の含み損益、回収見込みのない売掛金、退職給付引当金の不足などを反映させます。
② 営業利益を修正する
オーナー企業特有の項目を正常化します。過大または過少な役員報酬、事業と無関係な経費、一時的な損益などを調整し、実力ベースの利益を算出します。

計算例

項目 A社 B社 C社
帳簿上の純資産1億2,000万円8,000万円3億円
時価修正額+3,000万円△2,000万円+5,000万円
時価純資産1億5,000万円6,000万円3億5,000万円
決算書上の営業利益3,000万円△500万円8,000万円
役員報酬等の調整+1,000万円+2,000万円+2,000万円
修正後営業利益4,000万円1,500万円1億円
のれん年数3年3年4年
のれん1億2,000万円4,500万円4億円
株式価値(概算)2億7,000万円1億500万円7億5,000万円

B社にご注目ください。決算書上は営業損失500万円の「赤字企業」ですが、役員報酬の適正化を反映すると1,500万円の黒字であり、1億円を超える評価となりました。オーナー企業では、決算書の数字と事業の実力が乖離しているケースが少なくありません。「赤字だから売れない」と自己判断してしまうのは、大きな機会損失につながります。

のれん年数の考え方:3〜5年が一般的な目安とされますが、絶対的な基準ではありません。収益の安定性が高く、特定の人物に依存しない事業ほど年数は長く見られる傾向があります。逆に、業績の変動が大きい事業や、経営者個人の営業力に依存する事業では短くなります。

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評価額を左右する要因

同じ利益水準でも、評価額には差が生じます。買手は「買ったあと、この事業を継続・成長させられるか」という観点で見ているためです。

評価を高める要因
収益が安定し、複数期にわたり黒字が続いている
取引先が分散しており、特定先への依存が低い
経営者がいなくても事業が回る体制がある
参入障壁となる許認可・技術・特許を持つ
継続的な取引・ストック型の収益構造
従業員の定着率が高く、採用力がある
複数の買手候補が競合している
評価を下げる要因
業績の変動が大きく、先行きが読みにくい
売上の大半を1社に依存している
経営者個人の人脈・営業力に依存している
簿外債務・未払残業代などの潜在リスク
会社と経営者個人の資産・取引が混在
設備が老朽化し、近く多額の投資が必要
時間的な余裕がなく、交渉力を持てない

最も影響が大きいのは「経営者への依存度」です。買手にとって、経営者が退いた瞬間に売上が落ちる事業は、大きなリスクを伴います。逆に、営業も管理も組織として回っている会社は、のれん年数が長く見られる傾向にあります。これは短期間では改善できないため、承継を考え始めた段階から意識して体制を整える価値があります。

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評価が下がりやすいケース

デューデリジェンスの段階で判明し、価格の減額交渉につながりやすい典型例です。事前に把握しておけば、対処できるものも少なくありません。

⚠️ 減額要因になりやすい項目
  • 未払残業代:勤怠管理が不十分な場合、過去に遡って多額の負債と評価されることがあります
  • 退職給付引当金の不足:規程上の支給義務に対し、引当が足りていないケース
  • 回収不能な売掛金・不良在庫:帳簿に残っているが実際には価値がない資産
  • 経営者個人への貸付金:回収可能性が疑われ、資産から除外されることがあります
  • 名義株・株式の分散:株主の所在が不明だと、取引そのものが進まない場合があります
  • 契約書の不備:主要取引先との契約が口約束のみ、というケース
  • 許認可の承継不可:手法によっては許認可を引き継げず、スキーム変更が必要になります
  • 係争中の案件:訴訟・労働紛争などの潜在的な損失

隠すことが最大のリスクです。これらは、デューデリジェンスの過程でほぼ確実に発見されます。事前に開示していれば価格に織り込んで交渉できますが、後から発覚した場合は買手の不信を招き、減額どころか交渉そのものが白紙に戻ることもあります。気になる点があれば、早い段階でアドバイザーに共有していただくことをおすすめします。

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評価を受ける前に整えておくこと

評価の精度は、提供される情報の質に左右されます。以下が揃っていれば、より実態に近い評価が可能になります。

📄 揃えておきたい資料
直近3期分の決算書・法人税申告書
勘定科目内訳明細書
直近の試算表
株主名簿
借入金の一覧(金融機関・残高・保証の有無)
不動産・主要設備の一覧
従業員名簿(年齢・勤続年数)
主要取引先の売上構成
🔍 事前に確認したい論点
役員報酬は適正水準か、調整が必要か
会社名義の資産に私的利用のものはないか
経営者への貸付金・借入金の有無
保険の解約返戻金がいくらあるか
遊休不動産・不要資産の有無
株式が分散していないか
労務管理に懸念はないか
一時的な損益が含まれていないか
⭐ 企業価値評価を理解するための6つの要点
  • 企業価値と株式価値を区別する
  • 評価手法は複数あり、併用が前提
  • 中小M&Aでは年買法が実務の中心
  • 決算書の数字=事業の実力ではない
  • 経営者への依存度が評価を大きく左右する
  • 評価は交渉の出発点であり、終着点ではない

まずは概算を知ることから。正式な株価算定書の作成には相応の時間と費用がかかりますが、決算書があれば簡易的な評価は短期間で可能です。「売るかどうかは決めていないが、いくらくらいなのかは知っておきたい」という段階でも、判断材料として十分に価値があります。親族内承継を検討される場合も、株価は贈与税・相続税に直結する重要な情報です。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件の法務・税務・投資アドバイスを構成するものではありません。記載の計算例は説明のための仮設例であり、実際の評価額を保証するものではありません。税務上の取扱いについては税理士に、法務上の論点については弁護士にご相談ください。

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